青年期

思春期・青年期の主題として、「自分とは何者か」「自分は何になりたいのか」というテーマが出てきます。学童期までは、学校の先生のような人を理想化したり、父母を理想的な人物として同一化して、自分もその人のように振る舞ったり、考えたり思ったりしていた。しかし、思春期・青年期になると、それらの理想的な人物にも、自分の気に入らないところが出たり、その人達と違う自分の存在に気づいたりしていく。このように理想化と失望の経験を通して、本当の自分とは何か、本当は自分は何をやりたいのかが、次第に浮かび上がってくるのです。

目次

1-1 自分が人生の主人公である

主人公になる

このプロセスは、他人の影響から少しずつ離れ、自分が自分の主人公になっていくことで、これをエリクソンは「同一化」から「同一性」へのプロセスとよびました。他人の考えや行動を受け入れ、その人のように振る舞ったりして同一化し取り入れていたのに対して、自分で自分をつくっていこうとするこころの働きが「同一性」です。

このためにはもの凄いエネルギーが必要となります。自分についての最後の選択を自分が行うということは、当然ですが、最後の責任を自分でとるということです。その状態では人のせいにしたり、言い訳はできず、すべて自分が責任をおうことになります。

1-2 真の孤独を味わうことの重要性

真の孤独

この過程において、私たちは、真の孤独を味わうことになるのです。この孤独に耐えられない人は、その決定の過程を他人に任せたり、人の言いなりになって回避したり、決定を先延ばしにしてしまいます。決定の過程から逃げ出すということは自分から逃げ出すことと同じですから、自分というものがますますわからなくなってしまいます。このことをエリクソンは「同一性拡散・混乱の危機」と呼びました。

1-3 マーシャの4つの分類

マーシャの4つの分類

以上のようにエリクソンはアイデンティティ(同一性)という概念を提唱していますが、その概念は幅広く深い意味をもっており、一言で表現することが難しい面もあります。そこでマーシャはそれをわかりやすくまとめ、自我同一性達成の様子を以下の4つに分類しました。

  1. 同一性達成:試行錯誤や危機的な迷いの時期を経て、アイデンティティを確立した状態。
  2. モラトリアム:とりあえず課題を先送りしたかたちで今の生活を楽しんでおこうとしている状態。
  3. 早期完了:親や社会の価値観をそのまま受け継ぎ、葛藤や迷いの時期を経ることなく自分の生き方を決めている状態。
  4. 同一性拡散:決定の過程を他人に任せることで、自分というものがますますわからなくなった状態。

1-4 青年期における精神的な葛藤

青年期の悩み

青年期では、神経症、神経食欲不振症、不登校、非行なども大きな問題ですが、青年期は統合失調症、気分障害(躁うつ病)などの内因性精神病の好発期であることを忘れてはなりません。

1-5 アパシー・シンドローム(退却神経症)

大学

スチェーデント・アパシーはハーバード大学のウォルターズが大学生にみられる特有の無気力反応に対して提唱したものです。この報告では、日本の精神科医や心理関係者の強い関心を引いたと言われています。当時の日本でも大学紛争の嵐が吹き荒れ、大量の留年者とともに多数の無気力学生がみられたからです。のちに無気力反応を示す青年は大学生のみではないことから、退却神経症(アパシー・シンドローム)と名付けられました。

アパシー・シンドロームは次のような特徴をもちます

  1. ほとんどが男子学生である。
  2. 本業である学業の舞台からは降りてしまっているが、アルバイトなら極めて熱心にやり遂げる。
  3. 学校に行かなければならない気持ちは常にあるが学校に行けない。
  4. うつ病ではなく、抗うつ薬は効果がない。
  5. 成績が一番であったなど、過去に黄金時代を体験している。
  6. 強迫的というべき性格(几帳面、くそ真面目、完璧主義)を基礎にもっている。

アパシー・シンドロームに陥る青年は、標準以上の能力を持ち、履歴に黄金時代を有した経験があり、優秀劣敗に過敏で敗北や侮辱が予想される場合には、それから逃避しようとする傾向がありますが、長期的な予後は悪くなく、競争原理が回避され自由に生きられる職業に就くことが多いと言われています。

1-6 青い鳥症候群

青い鳥

一流大学を卒業して中央官僚や一流企業に就職して将来期待されながら、現在の自分を常に「仮の姿」であると思い込み「本当の自分」は他にあるはずだと考えます。現在の自分に漠然とした不満を抱き、転職を試みたりして「青い鳥」を探し求めます。しかし、漠然とした動機が出発点であるため、転職先でもまもなく同じような不満が再燃して、さらに別の職場へ転職することになってしまいます。

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