誰でも一度は人間関係で悩んだ経験があるのではないでしょうか。人と人のコミュニケーションは本当に様々な場面設定があり、いつ、誰に、どのようにと、その時々によって必要とされる要素も変化し続けています。こう言ったらこう思われるかもしれないし、この前こう言った時はこう反応していたなと常に考えながら人はその場に応じた選択を瞬時に行っているのです。本日は自分がどのような立ち位置で人と対人関係を営んでいるのかを知るきっかけになる知情意について説明していきたいと思います。
目次
1-1 日本人が古来より大事にしていた知情意という考え方
わが日本の誇る文学者、夏目漱石(1867~1916)は数多くの小説を残しています。最も有名な『吾輩は猫である』をはじめとして、『坊ちゃん』『草枕』『三四郎』などなど。
「山路を登りながら、こう考えた。智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角に人の世は住みにくい。」ここに挙げた一文は中でも有名な『草枕』冒頭の一節です。
「智に働けば」の「智」は「知」。知識や知力、知恵のことです。言葉通りに受け取れば、知力だけを前面に出すと、周囲とぶつかりやすいですが、言い方をかえれば、頭でっかちな人間、小賢しい人間はうとまれやすいということでしょう。
しかし、「情に棹させば流される」。これはつまり、人情ばかりに走ると、自分の意志にかかわらず周囲に流されてしまい、迎合してしまうことになりかねないということです。
かといって「意地を通せば窮屈だ」。すなわち、自分の意志を貫くために我を通そうとすれば、居心地の悪い状況が生じる。とにもかくにもこの世は住みにくい。
夏目漱石はそういっているわけですが、これを逆に受けとれば、ある種の処世術になるといってもいいのではないでしょうか。つまり、物事にあたっては、感情に流されすぎず、かといって頭脳だけで勝負するのでもなく、他人の意見に耳を傾け、自分の思いだけで動かない。そうすれば周囲とうまくいく。そういうことを言っているように思います。
日本人が昔から意識していたとされる「知情意」について理論として提唱していた方がいたのです。
夏目漱石草枕–青空文庫
http://www.aozora.gr.jp/cards/000148/files/776_14941.html
1-2 知情意から生まれたカッツの理論
カッツの理論とは、ハーバード大学の教授ロバート・カッツが1955年に発表した、管理職の人材評価システムや人材育成プランを作るうえで基盤的な役割を担っている理論です。
カッツは、マネージャーに必要な能力を、テクニカル・スキル、ヒューマン・スキル、コンセプチュアル・スキルの3つに分類しています。
1:テクニカル・スキル(業務遂行能力)
業務を遂行する上で必要な知識やスキルのことです。この能力は職務遂行能力とも言われ、その職務を遂行する上で必要となる専門的な知識や、業務処理能力を指します。職務内容により、その内容は異なってきます。
このスキルは、比較的若手(低位)のマネージャーに、より多く必要とされると言われてきましたが、最近は上位のマネージャーにも高度な業務知識が必須であると考えられています。
2:ヒューマン・スキル(対人関係能力)
人間関係を管理するスキルで、相手の言動を観察、分析し、その目的を達成するために、相手に対してどのようなコミュニケーションや働きかけをするかを判断、実行できるスキルです。このスキルは単なるコミュニケーションではなく、「目的に向かって」相手や集団に働きかけ相互作用していく力で、具体的なスキルとして、リーダーシップ/コミュニケーション/ファシリテーション/コーチング/プレゼンテーション/交渉力/調整力が挙げられます。
3:コンセプチュアル・スキル(概念化能力)
周囲で起こっている事柄や状況を構造的、概念的に捉え、事柄や問題の本質を見極める力です。このスキルは概念化能力とも言われ、抽象的な考えや物事の大枠を理解する力を指し、具体的には論理思考力、問題解決力、応用力などが挙げられます。
まとめ
この3つのスキルとマネジメントレベルには関係性があり、低い層ではテクニカル・スキルが特に重要と考えられ、マネジメントレベルの階層が高くなるほど、ヒューマン・スキルやコンセプチュアル・スキルの重要性が増すと考えられています。しかし、テクニカル・スキルについては、最近は上位のマネージャーにも高度な業務知識が必須であると考えられており、マネージャーが求められるレベルは高まっていると言えます。
自分が知情意のどの部分が多く含まれているかを知ることで企業で働くうえでどのマネジメント層に適しているのか、また、自分がなりたいマネジメント層に従事するためには何が足りないのかを知るきっかけとなるかもしれません。
余談ではありますが当オフィス名の「trinity」という言葉は日本語に訳すと三位一体という意味を含んでいます。この三位一体というと様々な言葉に引用されています。
人の心に触れる機会が多いカウンセラーとして知情意という三つの心のバランスを三位一体で意識していきたいという想いから、当オフィスの屋号を「trinity」とした経緯があります。
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